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「そうか、もうクリスマスか・・・」
クリスマスのイルミネーションが街を彩り、なんとなく浮かれた空気を放つ往来の人々を男は横目で見ながら歩いていた。
各地で見られる12月特有の雰囲気が嫌いなわけではない。ただ、いま向かっている場所のことを思うと、男は自分の存在が周囲と相容れぬ、ひどく場違いなものだということを嫌でも認識せざるを得ないのである。
彼らは知らない、どういう形であれ一年が終わるという、質量は無いが確かに存在する安堵感とも言えるものと対極に位置する場所があるということを。
「なぜ今になって・・・」
男はつぶやく。
もう勝負はついたはずだったのだ。あのとき、勝ちとは言わなくても、少なくとも引き分けには持ち込めたはずで、彼は自分が身を置いていた陰惨な世界から足を洗えたはずだった。
しかしこれが運命なのか、再びあの場所で戦うことを余儀なくされることになり、男は単身その地に足を踏み入れようとしている。
扉の前に立つ。この扉を開けたら、また戦いの日々に身を投じることになる。彼に選択権はないのだ。それを承知しながら、それを覚悟しながらも、彼には平穏の日々と決別するための一呼吸が必要であった。
「お待ちしておりました、主がお待ちです」
無機質な声に、自分が無意識に扉を開けたことに気づき、その声の方向を彼はまぶしそうに見つめる。
(二度と聞くことはないと思ったのだがな・・・)
ある種の懐かしさをも覚えながら、しかしその声に応じるでもなく、無表情のままこちらを見つめる姿を一瞥して彼は足を進める。
相手も何か応答を期待した様子も見せず、彼の3歩先に立ち、薄暗い階段を上がっていく。後ろの男が怖気づいて逃げる可能性など無いのを充分に分かっている、とでも言うように。
一歩一歩、自分が戦いの中に身を投じるのを、忘れかけていたあの緊張感と不思議な高揚感を感じながら、彼は戦場に近付いて行くのであった。
〜〜〜〜了〜〜〜〜
苦手なものの三本の指に入る、歯医者に久々に行った事を、ハードボイルド小説風に書くとこうなります。
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